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浦和地方裁判所 昭和56年(ワ)1147号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人

片岡彦夫

被告

乙野次郎

右訴訟代理人

塚越幸彌

主文

一  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和五六年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分しその一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告とA女が昭和四一年一一月四日に婚姻したこと、その間に長女B女が昭和四二年三月一四日に生まれたこと及びA女が○○電機に勤務していたことは当事者間に争いがない。

二〈証拠〉を総合すると、原告は、トラックの運転手として働き、A女は昭和五四年ころから○○電機に勤めて家計を支えてきたが、家計が苦しいので、A女の親から苦干の援助を受けて親子三人で暮していたことが認められる。

A女の証言によれば、A女は、原告が殴つたり乱暴することや、家計が苦しいので悩んでいたが、原告から「キャバレーとかトルコに勤めろ、男を五、六人作つて金を持つてこい。○○電機なんか安給料だからもつと金になるところへ行け。」などと毎日のように言われて独りで夫婦と家庭のことで悩み、夫婦仲が悪化していたことを認めることができる。

三〈証拠〉によれば、A女が、○○電機に勤務して一年位経過したころ、右○○電機に出入りしていた被告と知り合い、被告に夫婦間の悩み事を相談する程親密な交際関係に発展したことが認められる。

四〈証拠〉によれば、その後、原告はA女の男性関係についてNから聞き、更にA女の毎日の帰宅時間が一時間位遅くなつたことからA女の行動に不審を抱いたこと及び原告は、A女の行動を調査するため、C調査事務所等〈略〉に依頼したことが認められる。

五〈証拠〉によれば、被告は昭和五六年五月一日、六日から九日まで及び一一日の夜に、人気のない所で、A女と被告車の中で会つていたことが認められる〈証拠判断略〉。

六〈証拠〉を総合すれば、昭和五六年五月一一日に原告が前記のSと自動車でA女を尾行して△△工業団地の農道付近で被告車が長時間停車していた被告車に近づいて車内を見たところ、A女と被告が抱き合つていたのを目撃したことを認めることができる。〈証拠判断略〉

七〈証拠〉によれば、原告はA女の行動調査を前記C調査事務所に依頼し、同調査事務所の小林宏が昭和五六年七月四日、七日、一一日、一二日及び一九日(いずれも午後五時三〇分ころと午後六時三〇分ころから午後八時ころまで。)にそれぞれ自動車で尾行して調査したところ、七日と一一一日を除いて右調査時にいずれもA女と被告が各自の自動車を運転して行動を共にしていたことが認められる。(ただし、一二日は午後五時二三分ころ、A女の自動車に被告が乗車して運転した)。

八同じ証拠によれば、原告がA女の行動調査を前記D調査事務所に依頼し、同調査事務所の藤田幸一が昭和五六年八月一八日から同月二〇日及び同年九月一七日から同月一九日(毎日午後五時ころから午後八時ころまで。ただし、九月一七日は午後九時四五分ころまで。)にそれぞれA女を自動車で尾行調査したところ、右各調査時にA女が被告車に同乗していたことを認めることができる。

九〈証拠〉によれば、右藤田が昭和五六年九月一七日午後九時二一分ころ、A女の実家近くの埼玉県北埼玉郡騎西町地内の舗装工事中の道路に被告車が約二五分間消灯して停車していたが、月明りのため近付けなかつたため被告車が現場を去つた後、右被告車の停車場所にくしやくしやになつた使用後のテッシュペーパー四枚と空になつたテッシュペーパー入れが落ちていたことを認めることができる。〈証拠判断略〉

一〇〈証拠〉によれば、原告、関口及び神谷の三名が、A女の行動調査のため、昭和五六年九月二二日の夜、自動車でA女を尾行したところ、月明りもなく消灯した被告車の中で被告が上に、A女が下に重なり合つているのを目撃したことを認めることができる。〈証拠判断略〉

一一被告が昭和五六年五月一二日、A女の勤めていた○○電機の社長を立会人として原告の代理人関口悦雄と本件について慰藉料五〇〇万円を原告に支払う旨及び被告が原告に謝罪する旨などを内容とする示談が成立したことを認めるに足る証拠はない。

一二〈証拠〉によれば、A女は卵巣機能不全のため久喜市内の愛生会病院に昭和五三年一二月二七日から昭和五六年六月一日まで通院治療を受け、同病院の医師から基礎体温表をつけるように指示されて右体温表を作成していた事実及び同表の一月二六日、二九日、二月三日の各備考欄に「小池」と記載されていることを認めることができる。

しかし、右体温表の下欄に「小池」と記載されていることだけから直ちにA女が被告と性交渉があつたと認定することはできず、かえつて、〈証拠〉によれば、右「小池」の記載は、A女が右愛生会病院に通院のために被告から自動車に乗せてもらつた事実を記載したものと認めるべきである。

一三以上二ないし一〇の事実によれば、被告はA女としばしば性的関係をもつていたことを推認することができる。

一四被告は、このように原告に多大の精神的苦痛を与え、かつ原告とA女夫婦の関係をより悪化させ破綻させたのであり、これは原告の結婚生活における幸福を追求し保持する利益を著しく侵害する行為であるから、これによつて原告が受けた精神的苦痛を慰藉する責任を負わなければならない。

一五以上の諸事実を総合すると、原告の慰藉料として金五〇〇万円が相当と認められるから、本訴請求は金五〇〇万円及びこれに対する不法行為時後の昭和五六年一〇月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文をそれぞれ適用し、仮執行宣言は必要がないから付さないこととして、主文のとおり判決する。

(菅野孝久)

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